実家の親のところに、知らない番号から電話がかかってくる。そう聞くだけで、少し胸がざわつく方は多いのではないでしょうか。
詐欺の手口はこの20年あまりで大きく形を変えてきました。SNSを使うもの、AIを悪用するものと、新しい手口が次々に登場しています。それでも、いまなお被害の中心にあり続けているのが「電話から始まる詐欺」です。
この記事では、電話型の詐欺の代表的な手口である「オレオレ詐欺」「還付金詐欺」「ニセ警察詐欺」の3つを、家族の目線で整理します。読み終わるころには、親御さんに「こういう電話が来たら、いったん切ってね」と具体的に伝えられるようになることを目指します。
被害は、いまも増え続けています
まず、現状を数字で確認しておきます。警察庁が発表した令和8(2026)年上半期の暫定値によると、特殊詐欺全体の認知件数は22,031件、被害総額は1,816.2億円にのぼり、いずれも前年同期を大きく上回っています(前年同期比で被害額はおよそ1.5倍)。単純に年換算すると、認知件数は4万件超、被害総額は3,000億円を超える規模で推移していることになります(出典:警察庁 SOS47 発生状況)。
1日あたりに直すと、全国で被害額にしておよそ10億円が毎日動いている計算になります。ニュースで大きく報じられるのはごく一部で、その裏には報道されない被害が毎日積み重なっています。「うちは大丈夫」と思っているご家庭にこそ、知っておいていただきたい数字です。
電話型の詐欺とは。すべての始まりの系統です
当サイトでは、詐欺の手口を「電話型」「SNS・ネット型」「AI悪用型」の3つの系統に分けて記録しています。電話型はそのなかで一番古く、2000年代から続く、いわば第一世代の系統です。
「古い手口ならもう心配いらないのでは」と思われるかもしれません。ところが実際は逆で、警察庁の特殊詐欺対策ページ(SOS47)でも、オレオレ詐欺や還付金詐欺は現在も主要な手口として注意が呼びかけられています(出典:警察庁 SOS47 手口一覧)。
手口の中身は少しずつ姿を変えながら、電話という入り口だけは変わらずに使われ続けている。それが電話型の特徴です。
なぜ、いまだに電話なのか
理由はシンプルで、高齢の方にとって電話が一番身近な連絡手段だからです。SNSを使わない方でも、固定電話には出ます。そして電話には「声だけでやりとりする」「その場で返事を求められる」という特徴があり、落ち着いて考える時間を奪いやすいのです。
だます側はこの特徴をよく知っていて、電話口で相手を焦らせ、考える間を与えないように仕掛けてきます。
手口その1:オレオレ詐欺
「オレだけど。携帯の番号が変わったんだ」。こんな電話から始まるのが、いわゆるオレオレ詐欺です。息子や孫を名乗って電話をかけ、トラブルを装ってお金を要求します。
よくある流れ
典型的な流れは次のようなものです。
- 息子や孫を名乗る電話がかかってくる(「風邪をひいて声が変わった」などと言うことがあります)
- 「会社のお金を使い込んだ」「かばんをなくした」「事故を起こした」など、緊急のトラブルを打ち明けられる
- 「今日中にお金が必要」「このことは誰にも言わないで」と迫られる
- 本人ではなく「会社の同僚」「上司」を名乗る人物が、自宅までお金を受け取りに来る
ポイントは、本物の家族の情報をある程度調べたうえでかけてくる場合があることです。名前を知られていても、それだけで本物とは限りません。
見分けるポイント
「電話番号が変わった」と「お金」がセットで出てきたら、まず疑ってください。いったん電話を切って、以前から知っている本人の番号にかけ直す。これだけでほとんどの被害は防げます。
あわせて、家族だけの合言葉を決めておくのも昔ながらですが有効な方法です。とっさの合言葉に答えられない相手は、家族ではありません。
手口その2:還付金詐欺
「医療費の払い戻しがあります」「保険料の過払い金が返ってきます」。役所の職員を名乗って、お金が「もらえる」話を持ちかけてくるのが還付金詐欺です。
よくある流れ
- 市役所や年金事務所の職員を名乗る電話がかかってくる
- 「還付金の手続きの期限が今日まで」と期限を区切って焦らせる
- 「近くのATMで手続きできます」と、スーパーや銀行のATMへ誘導する
- 携帯電話で指示をしながらATMを操作させ、実際には振り込みをさせる
この手口の巧妙なところは、被害者が「お金を受け取る手続きをしている」と思い込んだまま、実際には送金の操作をさせられている点です。ATMの画面を「還付金の受け取り画面」だと説明されると、機械の操作に不慣れな方は信じてしまいます。
見分けるポイント
覚えていただきたいのは、たった一つです。ATMで還付金は受け取れません。役所や年金事務所が、ATMの操作を電話で指示することはありません(出典:警察庁 SOS47)。「ATMへ行ってください」と言われた時点で、それは詐欺です。
手口その3:ニセ警察詐欺
警察官を名乗る電話から始まる手口です。近年、この手口への注意喚起が各地の警察から繰り返し出されています(出典:警視庁 最新の手口)。
よくある流れ
- 警察官や検察官を名乗る電話がかかってくる。「+」から始まる国際電話番号や、非通知でかかってくることもあります
- 「あなたの口座が犯罪に使われている」「あなたに逮捕状が出ている」と告げられる
- 「捜査に協力すれば逮捕を避けられる」「口座のお金を一時的に調べる必要がある」と、お金を移すよう指示される
- ビデオ通話で「警察手帳」や「逮捕状」の画像を見せて信じ込ませる場合もあります
身に覚えがなくても、「逮捕」という言葉を警察から告げられれば、誰でも動揺します。その動揺につけ込む手口です。
見分けるポイント
本物の警察は、電話でお金を要求したり、口座のお金を移すよう指示したりすることはありません。また、警察からの電話が「+」で始まる国際電話番号でかかってくることも通常ありません。
少しでも不安に感じたら、いったん電話を切って、警察相談専用電話「#9110」に自分からかけて確認してください。本物の警察なら、確認の電話を嫌がることはありません。
3つの手口に共通する「型」があります
ここまで3つの手口を見てきました。並べてみると、共通する仕掛けが見えてきます。
- 焦らせる:「今日中に」「期限は今日まで」と、考える時間を奪う
- 秘密にさせる:「誰にも言わないで」「捜査中なので他言しないで」と、家族や周囲への相談を封じる
- 電話を切らせない:通話をつないだままATMや銀行へ向かわせ、冷静になる隙を与えない
逆に言えば、この型を知っていれば手口が変わっても対応できます。「焦らせてくる電話は、まず切る」。ご家族で共有するなら、この一言がいちばん役に立ちます。
電話型の中でも、手口は進化し続けています
当サイトは「手口の進化を記録する」ことをテーマにしています。実は、電話型という一つの系統の中だけでも、手口は時代とともに形を変えてきました。ここで簡単に振り返っておきます。
初期のオレオレ詐欺は、指定した口座にお金を「振り込ませる」形が中心でした。ところが、金融機関の窓口やATMでの声かけ・振込制限といった対策が進むと、犯人側は「自宅まで現金を受け取りに来る」形に切り替えました。受け子と呼ばれる受け取り役が登場したのはこの頃です。
その後は、現金の代わりに「キャッシュカードを受け取りに来る」手口や、隙を見てカードをすり替えて持ち去る手口も現れました。警察庁の分類では、こうした手口はキャッシュカード詐欺盗などの名前で整理されています(出典:警察庁 SOS47 手口一覧)。そして近年は、国際電話番号やビデオ通話を使うニセ警察詐欺のように、通信手段そのものを工夫する方向へ進化しています。
この流れから分かるのは、「対策が進むと、手口はそれをよける方向に変わる」ということです。つまり、一度覚えた知識も、ときどき更新が必要になります。当サイトが手口の変化を記録し続けるのは、そのためです。
「手口を知っている人」も、だまされています
ここで、少し意外なお話をします。詐欺の被害に遭った方の多くは、オレオレ詐欺や還付金詐欺という手口の存在を「知っていた」と言われています。
「知っているのに、なぜ」と思われるかもしれません。しかし、これが電話型詐欺の本当の怖さです。手口の知識は「他人事」として頭に入っていても、実際に「息子の声らしきもの」で「事故を起こした」と聞かされた瞬間、知識よりも感情が先に動いてしまうのです。
「自分の親はしっかりしているから大丈夫」という感覚は、残念ながらあてになりません。むしろ、まじめで責任感が強い方ほど「家族のピンチに応えなければ」「捜査に協力しなければ」という気持ちが働き、被害に遭いやすい面があります。
だからこそ、知識だけに頼らず、後述する「仕組みの備え」をあわせて用意しておくことが大切です。感情が動いてしまう場面でも、仕組みは冷静に働いてくれます。
国際電話番号からの着信への対策
ニセ警察詐欺のところで触れたとおり、最近は「+1」「+44」など、プラス記号から始まる国際電話番号を使った詐欺電話が問題になっています(出典:警視庁 最新の手口)。
海外に知り合いがいないご家庭であれば、シンプルで効果的な対策があります。「国際電話不取扱受付センター」(0120-210-364・NTT東西やKDDI・ソフトバンクなど主要各社が共同で運営)に申し込むと、03・06などから始まる固定電話(携帯電話は対象外)への国際電話の着信を無償で休止できます。着信休止はどの契約先でも無料で申し込め、KDDI・ソフトバンクの回線であれば発信の休止もあわせて申し込めます(それ以外の事業者で発信も止めたい場合は、契約先へ個別に確認が必要です)。海外との電話を使う予定がないご実家なら、検討する価値のある備えです。
また、スマートフォンの場合は、機種や契約している会社によって国際電話や迷惑電話をブロックする設定・サービスが用意されています。詳しい設定方法は契約先の窓口やショップで確認してみてください。
家族ができる備え
手口を知ったうえで、日常の備えをしておくと安心はさらに高まります。
留守番電話を「常時オン」にする
詐欺の電話をかける側は、声を録音されることを嫌います。在宅中でも留守番電話に設定しておき、相手を確認してからかけ直す運用にするだけで、被害のリスクは大きく下がります。今日から無料でできる備えです。
自動通話録音機・迷惑電話防止機能つき電話機
着信時に「この通話は録音されます」という警告を自動で流してくれる機器です。警告の段階で切ってしまう犯人が多いとされ、自治体によっては高齢者世帯への貸し出しや購入補助を行っているところもあります。お住まいの自治体の窓口で確認してみてください。
家族の合言葉と「かけ直しルール」
お金の話が出た電話は、必ずいったん切って、家族の知っている番号にかけ直す。このルールをあらかじめ決めておくと、とっさのときに迷わずにすみます。
ナンバーディスプレイの活用
かけてきた相手の番号が表示されるナンバーディスプレイも、備えとして有効です。知らない番号なら出ない、留守番電話にまかせる、という判断がしやすくなります。通信会社によっては、高齢の方向けにナンバーディスプレイ関連の料金を無償にする取り組みも行われていますので、契約先に確認してみてください。
離れて暮らしている場合は「日常の接点」を増やす
実家が遠く、頻繁に様子を見に行けない場合は、日常の連絡の回数そのものが備えになります。詐欺の電話は「家族に相談される前に完結させる」ことを狙ってきます。ふだんから気軽に電話やメッセージをやりとりする関係があれば、「変な電話が来たんだけど」という一言が自然に出てきます。
週に一度の短い電話でかまいません。「最近、変な電話来てない?」と聞くだけで、親御さんの中に「変な電話は子どもに話すもの」という回路ができます。この回路こそが、どんな機器にも勝る備えです。
よくある質問
Q. 非通知の電話には出ないほうがいいですか?
出ないことをおすすめします。非通知や知らない番号からの電話は留守番電話にまかせて、必要な相手ならメッセージを残してくれる、と考えるのが安全です。本当に大事な用件であれば、相手は必ず何らかの方法で連絡を残します。
Q. 親が「自分は大丈夫」と言って対策を嫌がります
よくあるお悩みです。正面から「だまされるかもしれないから」と言うと、多くの方は「自分を年寄り扱いするな」と感じてしまいます。おすすめは、主語を変えることです。「最近こういう手口があるんだって。私も気をつけようと思って」と、自分ごととして話題にすると、受け取ってもらいやすくなります。
また、「警察が注意を呼びかけている」という形で、警察庁のSOS47のページや自治体の広報を一緒に見るのも効果的です。家族の言葉より、公的機関の言葉のほうが素直に届く場合もあります。
Q. 録音機などの機器は、どこで手に入りますか?
自動通話録音機や迷惑電話防止機能つき電話機は、家電量販店や通販サイトで購入できます。その前に一度、お住まいの自治体の窓口や地域包括支援センターに問い合わせてみてください。無料の貸し出しや購入補助を実施している自治体が少なくありません。
もし電話を受けてしまったら。相談先の一覧
不審な電話を受けたとき、被害に遭ってしまったかもしれないときは、ひとりで抱え込まず、次の窓口に相談してください。
- 警察相談専用電話:#9110(緊急のときは110番)
- 消費者ホットライン:188(最寄りの消費生活センターにつながります)
「こんなことで電話していいのかな」とためらう必要はありません。未遂の段階の情報も、次の被害を防ぐ手がかりになります。
お金を振り込んでしまった直後にやること
万が一、振り込んでしまったことに気づいたら、時間との勝負です。次の2つを、できるだけ早く行ってください。
- 振込先の金融機関と、自分が利用した金融機関に連絡する。事情を伝えると、振込先口座の凍結(お金を引き出せなくする手続き)を依頼できます。犯人が引き出す前に凍結できれば、お金が戻る可能性が残ります
- 警察に被害を届け出る。口座の凍結手続きにも、警察への届け出が関わってきます
振り込め詐欺救済法という法律により、凍結された口座に残っていたお金から、被害の回復が図られる制度があります(被害回復分配金といいます)。必ず全額が戻るわけではありませんが、あきらめて何もしないのが一番もったいない選択です。
また、被害に遭ったご本人は、強いショックと「家族に申し訳ない」という気持ちを抱えていることがほとんどです。ご家族はどうか、責める言葉より先に「気づけてよかった」と声をかけてあげてください。だました犯人が悪いのであって、だまされた人は悪くありません。
まとめ:手口は変わっても、入り口は電話
オレオレ詐欺、還付金詐欺、ニセ警察詐欺。名前も筋書きも違いますが、どれも「電話で焦らせて、考える時間を奪う」という同じ型の上に成り立っています。
この記事の内容を、ぜひ一度、親御さんとの会話の話題にしてみてください。「最近こういう手口があるらしいよ」という何気ない一言が、いちばんの防犯になります。
当サイトでは、電話型に続く新しい系統として「SNS・ネット型」「AI悪用型」の手口も順次整理していきます。手口の変化を記録し続けることが、このサイトの役割です。またときどき、のぞきに来ていただければ幸いです。
(当サイトは個人が運営する情報サイトであり、警察・自治体などの公的機関とは関係ありません。実際の被害対応は、上記の公的な相談窓口へお願いします。)

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