キャッシュカード詐欺盗は、なぜ増えているのか。預貯金詐欺と正反対の動きを読み解く

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当サイトの電話型の記事と預貯金詐欺の記事に続き、この記事では「キャッシュカード詐欺盗」を取り上げます。預貯金詐欺とよく似た手口でありながら、統計上はまったく正反対の動きを見せている、対照的な存在です。

預貯金詐欺は激減、キャッシュカード詐欺盗は逆に増加

警察庁が発表した令和8(2026)年上半期の暫定値によると、キャッシュカード詐欺盗の認知件数は766件(前年同期比+157件、+25.8%)、被害額は8.4億円(同+1.1億円、+14.6%)でした(出典:警察庁 SOS47 令和8年上半期における特殊詐欺の認知・検挙状況等について)。

当サイトの預貯金詐欺の記事で紹介したとおり、預貯金詐欺は認知件数-47.4%・被害額-54.5%という、特殊詐欺の中でもっとも大きな下落を見せていました。ところが、同じように自宅を訪ねてキャッシュカードを狙うキャッシュカード詐欺盗は、件数・金額とも増加しています。似た者同士でありながら、片方は激減し、片方は増えている。この明暗の分かれ方には、理由がありそうです。

「印鑑を取りに行く隙」を突く、すり替えの手口

キャッシュカード詐欺盗は、警察官・市役所職員・金融機関職員などを装ってキャッシュカードを直接騙し取る手口と、キャッシュカードをすり替えて盗み取る手口の総称です。すり替え型の典型的な流れはこうです。「あなたのキャッシュカードが悪用されている」「偽造されている」と電話や訪問で伝え、キャッシュカードと暗証番号を書いた紙を封筒に入れさせます。そのうえで「封印するために印鑑を持ってきてください」と言って被害者がその場を離れたすきに、別の封筒とすり替えて盗み取るのです(出典:埼玉県「キャッシュカード詐欺盗(すり替え型)の手口」)。

実例:カードを盗んだうえで、さらに現金もだまし取る

2026年8月6日、愛媛県松山市で起きた事件が、この手口の実態をよく表しています。警察官を装う人物が80代の女性に電話をかけ、「あなたのキャッシュカードで何者かが20万円をおろした。新しいカードに変えましょう」と持ちかけました。共謀した20歳の男が女性宅を訪問してキャッシュカード4枚を盗み取ったうえ、電話の相手が「自宅に大金は置かないでほしい、預かります」と説得し、現金100万円までだまし取ったとして、窃盗と詐欺の両方の容疑で逮捕されています(出典:南海放送(Yahoo!ニュース配信))。カードを盗む「窃盗」と、現金をだまし取る「詐欺」を組み合わせた、複合的な手口であることが分かります。

なぜ明暗が分かれたのか。「お金の動き」の見えやすさの違い

ここからは当サイトの推測になりますが、両者の明暗を分けている理由の一つに、対策の効きやすさの違いがあるのではないかと考えられます。預貯金詐欺の記事で紹介したとおり、令和7年9月には金融庁と警察庁が金融機関に対し、口座の不正利用防止対策の強化を要請していました。この対策は、取引の金額や頻度の妥当性を見て検知する仕組みが中心で、いわば「お金が動いた瞬間」を捉える対策です。

ところが、キャッシュカード詐欺盗は、犯行の中心が「カードそのものを物理的にすり替えて盗む」という、口座システムの外側で起きる行為です。カードが盗まれた時点では、金融機関のシステム上は何も異常が起きていません。実際にATMで現金が引き出されて初めて、取引データに変化が表れます。つまり、振込・送金を検知する仕組みの強化は、キャッシュカード詐欺盗の”入り口”には直接効きにくいと考えられます。犯人グループが、対策が効きやすい預貯金詐欺から、対策の網をすり抜けやすいキャッシュカード詐欺盗へと軸足を移している可能性は、十分に考えられるシナリオです。

被害は増えているのに、検挙は減っています

もう一つ気になる数字があります。同じ資料によると、キャッシュカード詐欺盗の検挙件数は512件(前年同期比-43件、-7.7%)、検挙人員は135人(同-17人、-11.2%)と、いずれも減少しています。被害の認知件数が+25.8%と増えている一方で、捕まっている件数はむしろ減っている。この差は、被害の増加ペースに、捜査が追いついていない可能性を示しているとも読み取れます。

受け子役が現場で直接カードを盗む手口は、証拠が現金や振込記録として残りにくく、防犯カメラの映像や目撃証言が頼りになる場面が多くなります。物理的な接触を伴う手口ならではの捜査の難しさが、この数字の背景にあるのかもしれません。

見分け方は、預貯金詐欺の記事と共通しています

本物の警察官や金融機関職員が、暗証番号を尋ねたり、キャッシュカードを封筒に入れさせたりすることは絶対にありません。「印鑑を取りに行く」「確認のため封筒に入れて」といった言葉が出てきたら、その場でカードを渡さず、いったん距離を置いてください。松山市の事例のように、カードを盗まれたうえに現金までだまし取られる複合的な被害もあるため、「カードを盗まれただけ」で終わらない可能性も念頭に置く必要があります。

家族の備えとして、できること

キャッシュカード詐欺盗は、預貯金詐欺と同じく自宅に人が訪ねてくる手口なので、備え方も共通しています。

  • 暗証番号を書いたメモや、暗証番号を推測できる書類を、キャッシュカードと一緒に保管しない。すり替えの被害に遭っても、暗証番号が分からなければ現金化されるリスクは下がります
  • 「封筒に入れて」「印鑑を取りに行って」と言われた時点で、いったんその場を動かず、家族に電話で相談する。すり替えは、被害者がその場を離れる一瞬の隙を利用する手口なので、その場を離れないこと自体が有効な防御になります

まとめ:似た手口でも、対策の効き方は違います

預貯金詐欺とキャッシュカード詐欺盗は、どちらも「自治体・金融機関の職員を装い、自宅でカードを狙う」という共通点を持ちながら、令和8年上半期の統計では正反対の動きを見せていました。金融機関側の対策が振込・送金という「お金の動き」を中心に強化されている以上、犯人側が対策の薄い手口へと移っていくのは、ある意味で自然な流れなのかもしれません。手口の名前が変わっても、対策の基本は同じです。「カードを渡さない、暗証番号を教えない、その場を離れない」を、ぜひご家族と共有してください。

オレオレ詐欺・還付金詐欺・ニセ警察詐欺・預貯金詐欺を含めた電話型全体の手口は、電話型の記事で整理しています。あわせてご覧ください。

(当サイトは個人が運営する情報サイトであり、警察・自治体などの公的機関とは関係ありません。記載内容は警察庁・埼玉県等の公表資料および報道をもとに整理したものです。実際の被害に関するご相談は、警察相談専用電話「#9110」など公的な窓口へお願いします。)

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