振り込め詐欺でだまし取られたお金は、戻ってくることがあります。振り込んだ先の口座にお金が残っていれば、その残高から「被害回復分配金」として支払われる可能性があります。これを定めているのが、通称「振り込め詐欺救済法」です。ただし、戻るのは口座に残っていた分だけで、犯人がすでに引き出していれば支払いは受けられません。受け取れるまでには、少なくとも半年以上かかるのが一般的だと金融庁は案内しています。この記事では、お金が戻る条件と手続きの流れを、法律の条文と、金融庁・預金保険機構の案内から確認します。
戻るのは「振込先の口座に残っていたお金」だけです
振り込め詐欺救済法の正式な名前は「犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律」です(平成19年法律第133号)。預金保険機構によると、2008年(平成20年)6月21日に施行され、施行前の被害も対象になります(出典:預金保険機構「振り込め詐欺救済法 Q&A」)。
この法律の仕組みを一言でいうと、詐欺に使われた口座を凍結し、その口座に残っていたお金を、被害者に分けるというものです。預金保険機構は、被害者へ分配される額は「振込先口座が凍結された時の残高が上限」となり、「被害額の全額を国や金融機関が補填するというものではありません」と説明しています(出典:同上)。
つまり、次の3つがそろわないと、お金は戻ってきません。
- 口座への「振込み」でお金を払っていること
- 振込先の口座が凍結されたとき、その口座にお金が残っていること
- 決められた申請期間のうちに、支払いを申請すること
金融庁も「犯人が預金口座等からお金を引き出してしまうと支払は受けられません」と明記しています(出典:金融庁「振り込め詐欺等の被害にあわれた方へ」)。気づいたらすぐに連絡することが、何よりも大事なのはこのためです。
対象になるのは、口座への振込みで払った被害です
法律は、対象となる犯罪を「詐欺その他の人の財産を害する罪の犯罪行為であって、財産を得る方法としてその被害を受けた者からの預金口座等への振込みが利用されたもの」と定めています(第2条3項)(出典:e-Gov法令検索「犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律」)。
金融庁は、一般的に対象になる例として、オレオレ詐欺、架空請求詐欺、融資保証金詐欺、還付金等詐欺のほか、ヤミ金融や未公開株式の購入に関する詐欺、SNS型投資詐欺・ロマンス詐欺などのうち、預金口座等への振込みが使われた場合を挙げています(出典:金融庁「振り込め詐欺等の被害にあわれた方へ」)。名前は「振り込め詐欺」でも、SNS型投資詐欺やロマンス詐欺でも、口座に振り込んでいれば対象になりえます。
反対に、法律の対象は「口座への振込み」なので、現金を手渡した、現金を郵送した、電子マネーやギフトカードの番号を伝えた、といった払い方は、この仕組みの対象になりません(これは条文の定義からの、この記事としての整理です)。手渡しなどの被害にあった場合は、まず警察に相談してください。
お金が戻るまでの流れ。口座の凍結から、分配金の支払いまで
手続きは、次の順番で進みます。預金保険機構のQ&Aと、法律の条文をもとに整理しました。
- 警察と、振込先の金融機関に連絡する:預金保険機構は、被害にあったら「すぐに警察や振込先の金融機関に連絡・届出し、振り込んだ預金口座等の取引の停止を依頼して下さい」と案内しています。
- 金融機関が口座を止め、預金保険機構に公告を求める:金融機関は、犯罪に使われた口座だと疑うに足りる相当な理由があると認めたとき、取引を止め、口座の名義人の権利をなくす手続き(債権の消滅手続)の公告を、預金保険機構に求めます(第4条)。
- 名義人の権利がなくなるのを待つ(60日以上):公告には、名義人が「この口座は自分のものだ」と届け出る期間が設けられ、その期間は公告の翌日から60日以上と決まっています(第5条2項)。届出がなければ、名義人の権利はなくなります(第7条)。
- 支払手続の開始が公告され、申請を受け付ける(30日以上):続いて、分配金の支払手続が始まったことが公告されます。申請できる期間は、公告の翌日から30日以上です(第11条2項)。
- 申請し、金融機関が支払いを決める:申請期間が過ぎると、金融機関が申請内容をもとに、支払いを受けられる人かどうかと、被害額を決めます(第13条)。その後、分配金が支払われます(第16条)。
公告は、預金保険機構のウェブサイトに、月2回、原則として1日と16日(休日の場合は翌営業日)に掲載されます(出典:預金保険機構「振り込め詐欺救済法 Q&A」)。振り込んだ口座が公告されていれば、預金保険機構「振り込め詐欺救済法に基づく公告」で、残高や申請期間を見ることができます。ただ、預金保険機構自身が「公告を常時チェックされることは大変だと思います」として、公告の対象になるかも含めて振込先の金融機関に問い合わせるほうが効率的だと案内しています。
振込先の金融機関に被害を申し出ている人には、金融機関から申請期間が個別に連絡されると、金融庁は説明しています(出典:金融庁「振り込め詐欺等の被害にあわれた方へ」)。
申請に必要なもの。振込明細をなくしていても、申請はできます
金融庁の案内によると、申請は、申請書(様式第一号)に必要事項を書き、次の資料をつけて、振込先の金融機関に出します。振込みをした金融機関から出すこともできます(法律でも第12条3項で定められています)。
- 本人であること、または代理人であることを確認できる資料
- 被害者であることを示す資料(振込明細書など)
申請書は、金融庁のページからダウンロードできます。金融庁は、振込明細書をなくしてしまった場合でも申請はできるとしています。その場合は、振込みの内容などを金融機関に十分に説明する必要があります(出典:金融庁「振り込め詐欺等の被害にあわれた方へ」)。
被害者が何人もいると、残高を被害額の割合で分けます
ひとつの口座に、何人もの被害者がお金を振り込んでいることは珍しくありません。法律では、被害者全員の被害額の合計が口座の残高を超えるときは、残高を、それぞれの被害額の割合で分けると定めています(第16条2項)。
たとえば、口座に100万円が残っていて、Aさんが300万円、Bさんが200万円の被害を申請した場合、被害額の合計は500万円です。Aさんには100万円×300/500=60万円、Bさんには100万円×200/500=40万円が支払われる計算になります(数字は、仕組みを説明するための例です)。
また、口座の残高が1,000円未満の場合は、分配金は支払われません(第8条3項)。この場合、そのお金は金融機関から預金保険機構に納められ、犯罪被害者等の支援の充実のためなどに使われると、預金保険機構は説明しています(出典:預金保険機構「振り込め詐欺救済法 Q&A」)。
申請期間を過ぎると、この制度では受け取れません
申請期間のうちに申請しなかった場合、この法律による分配金は受け取れません。預金保険機構はそのうえで、「その場合でも、加害者に対する民事上の請求等を行うことは可能です」とも説明しています(出典:預金保険機構「振り込め詐欺救済法 Q&A」)。加害者にお金を請求する権利には、別に時効があります。期限については、詐欺の時効は何年? お金を取り戻せる期限を、法律の条文から確認しましたで整理しています。
なお、支払いが決まったあとも、支払額が決まった旨の公告から6か月のあいだ受け取りの手続きをしないと、分配金を受け取る権利はなくなります(第22条1項)。金融機関から連絡が来たら、そのままにしないでください。
「お金を取り戻せます」と持ちかけてくる話は、2回目の詐欺を疑ってください
ここは、被害にあった人の家族にこそ知っておいてほしいところです。預金保険機構は、自分たちの名前をかたる詐欺について、長年にわたって注意を呼びかけています。そのなかには、「『振り込め詐欺救済法』に基づく返金制度を装った詐欺行為にご注意ください」という注意喚起が、2013年(平成25年)から2014年(平成26年)にかけて4回、「被害回復を持ちかける詐欺的勧誘にご注意ください」という注意喚起が2011年(平成23年)に出されています(出典:預金保険機構「機構の名をかたる詐欺などにご注意!」)。
同じページで、預金保険機構は次のように明記しています。
- 機構の職員が、電話や訪問で取引銀行や口座番号を聞き出したり、キャッシュカード、クレジットカードや現金・通帳などを預かったりすることは一切ない
- 機構から一般の方へ電子メールを送ることはない
- 機構と無関係の者が機構を名乗ることは預金保険法に違反し、処罰の対象になる
一度だまされた人は、「取り戻したい」という気持ちが強いぶん、「返金の手続きをします」という話に耳を傾けやすくなります。分配金の手続きは、申請書に資料をつけて、振込先の金融機関(または振込みをした金融機関)に出す仕組みです。被害を申し出ている人には、振込先の金融機関から申請期間の連絡が来ることがありますが、その場合も申請は書面で行います。電話や訪問で口座番号やキャッシュカードを聞き出そうとしたり、「返金のため」とお金を払わせようとしたりする話は、この制度の手続きではありません。そういう連絡が来たら、いったん切って、警察か、振込先の金融機関に、自分で調べた番号から確かめてください。
救済法とは別に、刑事裁判のあとで戻る制度もあります
金融庁は、振り込め詐欺救済法以外の被害回復の制度として、「被害回復給付金支給制度」も案内しています。詐欺などの犯罪で被害者から得た財産が、刑事裁判の確定によって犯人から取り上げられた(没収・追徴された)場合に、所定の手続きで使える場合がある制度です(出典:金融庁「振り込め詐欺等の被害にあわれた方へ」)。詳しくは、法務省「被害回復給付金支給制度 Q&A」で確認できます。
まとめ:戻るかどうかは、最初の連絡の早さで決まります
- 振り込め詐欺救済法では、振込先の口座に残っていたお金から「被害回復分配金」が支払われます。上限は凍結時の残高で、全額が戻るとは限りません。
- 対象は、口座への振込みで払った被害です。SNS型投資詐欺やロマンス詐欺も、振込みなら対象になりえます。
- 名義人の権利を消す手続き(60日以上)のあと、申請期間(30日以上)があり、受け取りまで半年以上かかるのが一般的です。
- 申請は、振込先の金融機関(振込みをした金融機関からも可)へ。振込明細をなくしていても申請できます。
- 被害者が複数なら、残高を被害額の割合で分けます。残高が1,000円未満なら支払われません。
- 「返金します」と持ちかけて、口座番号やカード、お金を求めてくる話は、2回目の詐欺を疑ってください。
被害に気づいたら、まず警察(最寄りの警察署、または警察相談専用電話「#9110」)と、振込先の金融機関に連絡してください。口座にお金が残っているうちに止めることが、戻ってくるかどうかを左右します。電話で始まる詐欺の手口は電話で始まる詐欺の手口をまとめた記事、SNSやネットから始まる手口はSNS・ネット型詐欺の手口をまとめた記事で整理しています。
(当サイトは個人が運営する情報サイトであり、警察・自治体・金融庁・預金保険機構などの公的機関とは関係ありません。この記事は、法律と公的機関の案内にもとづく一般的な仕組みの整理であり、個別の事案についての法的な助言ではありません。手続きの詳細は、振込先の金融機関にお問い合わせください。)
NEWSLETTER
最新の詐欺手口を、週1回メールでお届けします
新しい手口の解説記事や、その週に報じられた詐欺事件のまとめを無料で配信します。ご家族への注意喚起にもお使いください。
運営:詐欺手口アーカイブ(info@sagi-teguchi-archive.com)。メール内のリンクからいつでも配信停止できます。


コメント