当サイトのAI悪用型の記事では、ディープフェイク投資広告・AI音声クローン・AI検索汚染の3つをまとめて整理しました。この記事では、そのうちの一つ「ディープフェイク投資広告」を、直近の政府対応と実際の訴訟を軸に掘り下げます。
被害額は、3年でおよそ5倍に膨らんでいます
まず、この手口がどれだけ急拡大してきたかを数字で振り返ります。警察庁によると、SNS型投資詐欺の被害は2023年に全国で2,271件・約277億円でした。2024年は1〜8月だけで641億4,000万円に達し、2025年は1,288億円(前年比+47.9%)と過去最悪を更新しました。そして2026年は5月末時点ですでに前年同期のおよそ2.5倍にあたる700億円に達したと報じられています。
この急拡大の背景として指摘されているのが、2024年ごろから著名な経営者やコメンテーターの画像・動画を無断使用した「なりすまし広告」がFacebookやInstagramなどで大量に配信されるようになったことです。当サイトのAI悪用型の記事でも触れたとおり、2026年8月7日には警察庁・金融庁・消費者庁・デジタル庁・総務省・法務省・経済産業省の7府省庁が、Google・Meta・X・TikTok・LINEヤフーの5社に対策強化を要請しました(出典:INTERNET Watch「警察庁ら、Google、LINEヤフーなどデジタル広告プラットフォーム5社に『なりすまし詐欺広告』対策強化を要請」)。
要請の中身は、大きく3つに整理されています。①広告主への本人確認の確実な実施、②広告の透明性向上に係る措置の実施(広告主の名称・所在地・身元確認の有無・AI生成であるかどうかなどを利用者が確認できるようにすること)、③削除要請への対応の徹底です。各社は具体的な実施内容を2026年10月16日までにデジタル庁へ報告し、さらに本人確認件数や削除件数といった実施結果を2027年3月16日までに報告することが求められています。
なりすまされた本人が声を上げても、まだ止まっていません
実は、この問題は行政の要請より先に、被害を受けた著名人自身が声を上げていました。実業家の前澤友作氏は、自身の名前や写真が無断で使われた投資詐欺広告がInstagramやFacebookに掲載され続けているとして、2024年5月にMeta社および日本法人を相手取り、東京地裁に提訴しています。求めているのは、なりすまし広告の掲載差し止めと、あえて1円の損害賠償です。同年7月には第1回口頭弁論が開かれましたが、Meta側は請求棄却を求め、争う姿勢を示しました(出典:日本経済新聞「前沢友作氏提起の偽広告訴訟で初弁論」)。
あえて1円の損害賠償を求めたのは、お金が目的ではなく、プラットフォーム側の対策の甘さそのものを問う狙いがあったとされています。それでも訴訟は簡単には決着せず、2026年8月時点でも係争は続いています。著名人本人が実名で声を上げ、裁判にまでなってもなお、なりすまし広告を完全になくすことの難しさが、この経過からうかがえます。
なぜ「なくせない」と言われてしまうのか
報道によれば、メタ社側は「AIを使って広告を審査するなど、なりすまし広告をなくす努力はしているが、すべてをなくすことはできない」という趣旨の立場を示しているとされています(出典:Wedge ONLINE「前澤友作氏メタ社を告訴へ」)。広告プラットフォーム各社は、以前からAIを使った広告審査の仕組みを持っています。それでもなりすまし広告が完全になくならないのは、審査する側とすり抜けようとする側が、同じAI技術を使った攻防を続けているためです。海外の拠点から出稿されたり、審査の基準に引っかからないよう微妙に表現を変えた広告が繰り返し作られたりすることで、削除してもまた新しい広告が現れる、といういたちごっこが起きています。
今回の要請にある「広告主の本人確認」は、この構造そのものに切り込む取り組みです。広告の中身をAIで見抜こうとするだけでなく、広告を出す側の身元をあらかじめ確認しておくことで、いたちごっこの土台を崩そうという狙いがあると考えられます。どこまで実効性を持たせられるかは、10月の報告を待つ必要があります。
政治の側でも、対策の議論が進んでいます
行政の要請と並行して、立法面でも動きがあります。自由民主党のディープフェイク対策合同プロジェクトチームは、2026年5月19日に「ディープフェイク詐欺広告対策に関する提言」を取りまとめました(出典:自由民主党「ディープフェイク詐欺広告の根絶に向けて」)。行政による削除要請の強化、プラットフォーム事業者の責任のあり方、なりすまされた側の法的救済など、複数の角度から対策が検討されている段階です。
当サイトのAI悪用型の記事でも書いたとおり、この系統は数ヶ月単位で状況が動いています。10月の報告期限や、前澤氏の訴訟の進展など、今後も追いかけるべき動きがいくつも控えています。
個人でできることは、結局シンプルです
制度や訴訟の行方がどうであれ、個人が今すぐできる対策は変わりません。AI悪用型の記事でも紹介したとおり、著名人が無料で投資を教えたり、確実に儲かる話を持ちかけたりすることは基本的にありません。動画で見覚えのある顔が出てきても、金銭がからむ話であれば、その人物の公式アカウントやオフィシャルサイトで同じ情報が発信されているかを必ず確認してください。
前澤氏のケースのように、なりすまされた本人が「これは自分ではない」と明確に否定している例も少なくありません。著名人の公式SNSでは、こうしたなりすまし広告への注意喚起が発信されることもあります。広告そのものより、本人発信の情報を確認する習慣を持つことが、いちばん確実な防御になります。
今回の要請が実行されれば、今後は広告に「広告主の名称」「AIを主に用いて作成した広告である旨」などの表示が加わっていく可能性があります。そうした表示が導入された際は、それを確認する習慣も新たに加えてください。表示が見当たらない、あるいは広告主の情報が不自然な場合は、それ自体が警戒すべきサインになります。
家族との会話に、この話題を加えるなら
「〇〇さんが投資を勧めていた」という話が家族から出てきたら、それだけで安心せず、「その人の公式サイトやSNSで、同じ話をしているか一緒に確認してみよう」と提案してみてください。行政も企業も対応を進めている最中の問題だからこそ、「今は完全には防ぎきれていない」という前提を家族で共有しておくことが、実務的な備えになります。
AI音声クローン・AI検索汚染を含めたAI悪用型全体の手口や、家族の備えの詳細は、AI悪用型の記事で整理しています。あわせてご覧ください。
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