当サイトのAI悪用型の記事では、ディープフェイク投資広告・AI音声クローン・AI検索汚染の3つをまとめて整理しました。この記事では、そのうちの一つ「AI音声クローン」を、海外の警告内容と、国内の対策技術の両面から掘り下げます。
必要な音声は、わずか3秒
AI悪用型の記事でも触れたとおり、音声クローンの技術水準はすでに実用段階にあります。アメリカの消費者保護当局FTC(連邦取引委員会)は、詐欺師がAIを使って家族や友人の声を偽装する手口について注意を呼びかけており、わずか数秒の音声サンプルがあれば、SNSに投稿された動画や留守番電話のメッセージからでも声を複製できるとしています。
手口の典型は、「おばあちゃん、私だよ」「助けて、今すぐお金が必要なの」といった、家族の緊急事態を装う電話です。恐怖や焦りを与えて、考える時間を与えないまま行動させようとする点は、当サイトの電話型の記事で紹介したオレオレ詐欺の型と同じです。違うのは、その声が本物そっくりに聞こえてしまう、という一点だけです。
FTCが勧める、いちばんシンプルな対策
FTCが推奨している対策は、技術的な対抗策ではなく、家族間のシンプルな取り決めです。事前に家族だけの合言葉を決めておき、緊急の電話を受けたら合言葉を聞く。詐欺師はSNS等で調べられる情報は真似できても、事前に共有されていない合言葉までは用意できません。あわせて、電話をいったん切り、本人が普段使っている番号にかけ直して確認することも推奨されています。当サイトのAI悪用型の記事で紹介した「かけ直して確認する」「合言葉を決めておく」という備えは、海外の公的機関も同じ結論にたどり着いている、ということです。
海外の調査で見えてきた、具体的な口実のパターン
海外の調査データによると、AI音声クローン詐欺で使われる口実には偏りがあります。多い順に「交通事故にあった」(43%)、「強盗にあった」(36%)、「携帯や財布をなくした」(33%)、「海外旅行中で助けが必要」(33%)となっています。そして、お金を必要とする家族・友人からの音声メッセージに「返信する」と答えた人は36%、特に配偶者からのメッセージだと45%にのぼるという結果も出ています(出典:INTERNET Watch「本人そっくりな声で仕掛ける詐欺の手口、AIでさらに巧妙になる『オレオレ詐欺』」)。
同調査では、実際に被害に遭った人のうち7%が5,000〜15,000ドル(日本円で概ね75万円〜225万円ほど)という高額の被害を受けたと報告されています。声の精巧さを除けば、「事故」「紛失」「緊急」という口実で焦らせる型は、当サイトの電話型の記事で紹介した特殊詐欺の型と、驚くほど一致しています。
日本では、通信キャリア側の対策が動き出しています
当サイトのAI悪用型の記事では、「日本ではまだ公式な被害統計が確認できていない」とお伝えしましたが、対策の面では具体的な動きが出てきています。NTTドコモは2026年5月27日から、特殊詐欺対策を強化した新プラン「あんしんセキュリティ 詐欺対策プラス」の提供を開始しました。AIが9種類の詐欺の可能性を判定する詐欺チェック機能や、フェイク画像診断機能(F-Secure社提供・3段階で結果を表示)、迷惑電話拒否機能(トビラシステムズ社の迷惑情報データベースを活用)を搭載しています。同社の公表値では、2025年1〜12月の実績で迷惑電話を約99%、詐欺の恐れがあるSMSを約97%検知したとされています(出典:Innovatopia「NTTドコモ『あんしんセキュリティ 詐欺対策プラス』」)。料金はスタンダードプランが月額999円、トータルプランが月額1,815円(税込)です。
さらに、ドコモは通話そのものをAIで判定する技術の開発も進めています。録音した通話の内容を、詐欺電話のデータベースと照合し、生成AIが詐欺の可能性を「高・中・低」の3段階で判定する仕組みで、詐欺判定の正解率は95%以上を達成したとされています。2026年度中の実用化を目指し、現在は社内実証を進めている段階です(出典:ニュースイッチ「正解率95%超…生成AIで詐欺電話判定、ドコモが実用化へ」)。
技術の進化は、攻める側と守る側の両方で起きています
ここまで見てきたとおり、AI音声クローンという「攻撃」の技術が進化する一方で、それを検知する「防御」の技術も同時に進化しています。95%という正解率は高い数字ですが、裏を返せば20件に1件は判定を誤る可能性があるということでもあります。技術による検知は今後さらに精度が上がっていくと考えられますが、現時点では家族の合言葉のような、技術に頼らない備えと組み合わせることが現実的です。
当サイトのAI悪用型の記事でも書いたとおり、この系統は数ヶ月単位で状況が動いています。今回紹介した対策は、調べた範囲ではNTTドコモが先行して打ち出しているもので、他の通信キャリアの同様の取り組みは今のところ確認できていません。今後、他社にも同様の対策が広がっていくのか、通信キャリア各社の動きも引き続き追いかけていきたいところです。
SNSに動画を載せなければ安全か、というと
「家族の声が入った動画をSNSに載せなければ大丈夫」と思われるかもしれませんが、それだけでは十分ではありません。留守番電話のメッセージ、オンライン通話の録音、店頭での立ち話が録音されるケースなど、音声が収集されうる経路は他にも存在します。SNSの公開範囲を見直すことは有効な備えの一つですが、それだけで完全に防げるわけではない、という前提を持っておくことが大切です。だからこそ、声そのものを隠すことよりも、「声が本物でも、行動の前に確認する」という仕組みのほうが確実です。
「声だけでは判断しない」を、今のうちに家族の習慣に
AI音声クローンの怖さは、これまで詐欺を見抜く最後の手がかりだった「本人の声」そのものが、偽装の対象になったことです。だからこそ、声の真偽を耳で判断しようとするのではなく、「お金の話が出たら、いったん切って、決めておいた方法で確認する」という行動そのものを、家族のルールにしておくことが重要です。
合言葉は、誕生日のような調べればわかる情報ではなく、「最後に一緒に行った場所」「昔飼っていたペットの名前」など、SNSなどに残っていない記憶をもとに決めることをおすすめします。技術がどれだけ進化しても、事前の取り決めさえあれば対応できる、というのがこの手口に対するもっとも確実な防御です。
ディープフェイク投資広告・AI検索汚染を含めたAI悪用型全体の手口や、家族の備えの詳細は、AI悪用型の記事で整理しています。あわせてご覧ください。
(当サイトは個人が運営する情報サイトであり、警察・自治体などの公的機関とは関係ありません。記載内容は各種報道機関・企業の公表資料をもとに整理したものです。実際の被害に関するご相談は、警察相談専用電話「#9110」など公的な窓口へお願いします。)
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