「素敵な女性を紹介します」という一通の広告から始まる詐欺があります。「交際あっせん詐欺」です。ロマンス詐欺の記事で扱った「恋愛感情につけこむ詐欺」とは、実は仕組みがまったく異なります。婚活・結婚相手紹介というサービス自体が、多くの人にとって切実で、かつ第三者に相談しにくいテーマだからこそ、この手口は静かに広がりやすいという側面があります。令和8年上半期のデータと、実際に愛知県警が摘発した事件をもとに、この手口を掘り下げます。
認知も検挙も、両方跳ね上がった珍しい手口
警察庁が発表した令和8(2026)年上半期の暫定値によると、交際あっせん詐欺の認知件数は330件(前年同期比+162件、+96.4%)、被害額は11.7億円(同+6.4億円、+120.7%)でした(出典:警察庁 SOS47 令和8年上半期における特殊詐欺の認知・検挙状況等について)。認知件数・被害額とも、この記事のシリーズで扱ってきた金融商品詐欺(+158.9%)に匹敵する急拡大です。
さらに目を引くのが検挙の数字です。検挙件数は18件(前年同期比+17件、+1,700.0%)、検挙人員は10人(同+7人、+233.3%)と、こちらも大幅に増加しています。前年同期はわずか1件・3人だった検挙が、今期は18件・10人にまで跳ね上がった計算です。これまでこの記事シリーズで見てきた「認知は減って検挙は増える」(融資保証金詐欺)、「認知は増えて検挙は減る」(架空料金請求詐欺)といったパターンとも違い、認知・検挙のどちらもが同時に急増するという、特殊な動きを見せています。被害そのものが急拡大している一方で、摘発の手も同じペースで強化されている、と言えそうです。
警察庁が同じ「その他の手口」としてまとめている4つの手口を並べてみると、それぞれまったく違う動きをしていることが分かります。融資保証金詐欺は認知件数-20.0%・検挙件数+3.4%、金融商品詐欺は認知件数+158.9%・検挙件数-58.3%、ギャンブル詐欺は認知件数+53.3%と小規模ながら増加、そして交際あっせん詐欺は認知件数+96.4%・検挙件数+1,700.0%です。同じカテゴリーにひとまとめにされているとはいえ、手口ごとの実態はこれほどばらばらだということが、この4手口を並べるとよく見えてきます。
警察庁の定義:「登録料」から「保証金」への二段構え
警察庁は交際あっせん詐欺について、次のように説明しています。雑誌やメールに記載された「女性紹介」等の案内に申し込んできた人に対して、会員登録料金や保証金等の名目で金銭等をだまし取る(脅し取る)手口です(出典:警察庁SOS47「その他の手口」)。
手口の流れは段階的です。まず「会員登録をすれば、素敵な女性を紹介します。登録料○万円を振り込んでください」と持ちかけられます。ここで振り込んでしまうと、次の段階に進みます。「先日お会いした女性があなたを気に入っています。相手を保留しておくため、保証金を支払ってもらえますか」と、追加の金銭を要求されるのです。中には、紹介する異性と会えば相手からもお金がもらえる、といった話を持ちかけて会員登録料をだまし取る、別のパターンも確認されています。一度の振込では終わらず、理由を変えながら何度も請求が続く、という点は、これまで扱ってきた被害回復型の投資詐欺などとも共通する構造です。
ロマンス詐欺との決定的な違い:演じるのは「関係」か「サービス」か
「交際」「恋愛」に関わる詐欺と聞くと、多くの人はロマンス詐欺の記事で扱った手口を思い浮かべるかもしれません。ですが、警察庁の統計上、交際あっせん詐欺とロマンス詐欺(SNS型ロマンス詐欺)は明確に別のカテゴリーです。この違いは、被害の構造そのものが異なるという点で、押さえておく価値があります。
ロマンス詐欺は、詐欺師自身が被害者と一対一の関係を築き、恋愛感情や親近感を持たせた上で、「会いに行くための渡航費が必要」「事業資金を貸してほしい」などの名目で振込を要求する手口です。だます相手は「詐欺師本人」であり、演じられているのは「架空の恋愛関係」そのものです。
これに対して交際あっせん詐欺は、演じられているのは「異性紹介サービス」という商品です。詐欺師は被害者と個人的な関係を築く必要すらありません。「会員登録すれば紹介します」という商品そのものが最初から存在しない、あるいは実態のないサービスなのです。極端に言えば、ロマンス詐欺は「人間関係の詐欺」、交際あっせん詐欺は「サービスの詐欺」だと整理できます。恋愛感情という強い心理的な武器を使わない分、詐欺師にとっては手間が少なく、それでいて「紹介してほしい」という需要そのものは変わらず存在するため、被害が生まれ続けているのだと考えられます。
実例:結婚相談所を運営する会社が起こした、二度の逮捕
この手口の実態がよく分かる事件が、2026年に愛知県警によって摘発されています。結婚相談所の事業などを手がける会社の代表取締役(40代)が、詐欺未遂の疑いで2度にわたって逮捕されています(出典:中京テレビNEWS(Yahoo!ニュース配信・1度目の逮捕)、中京テレビNEWS(Yahoo!ニュース配信・再逮捕)、時事通信)。
1度目の逮捕は2026年4月です。北名古屋市に住む70歳の男性に対し、SNSで「女性を紹介するためのシステムデータの異常を修復するために金がかかる」などとうそを言い、現金をだまし取ろうとした疑いが持たれました。この事件では、男性から相談を受けていた警察が「だまされたふり作戦」(被害者が一度は要求に応じるふりをして、実際の受け渡し場所で犯人を捕まえる捜査手法)を実施し、JR名古屋駅構内のコインロッカーに金を受け取りに来たところを現行犯逮捕しています。
2度目の逮捕は同年5月です。今度は京都市に住む69歳の男性に対し、SNSで女性を紹介するやりとりを続ける中で、「男性のミスにより決済システムで異常が起きたため、ロックの解除費用が必要」といった、もっともらしいうそのメッセージを送り、JR京都駅のコインロッカーに現金およそ135万円を入れさせてだまし取った疑いが持たれました。愛知県警は、この会社が運営する結婚相談所で得た顧客情報が、不正に利用された可能性もあるとみて調べているといいます。
この事件からは、いくつも読み取れることがあります。一つは、警察庁の基本的な説明にあった「登録料」「保証金」という単純な名目だけでなく、「決済システムの異常」「ロックの解除費用」といった、より現代的で技術的な口実に進化している点です。もう一つは、正規の結婚相談所ビジネスと詐欺行為が、同じ会社・同じ経営者のもとで併存していた疑いがあるという点です。もしこの疑いのとおりだとすれば、本来の顧客情報が悪用されていた可能性があるということであり、「結婚相談所に登録すること自体」への信頼を揺るがしかねない事件だと言えます。
「システムの異常」「決済のロック」という言い回しは、この記事のシリーズで扱ってきた他の手口とも通じるものがあります。金融商品詐欺の記事で紹介した「インサイダー取引にあたる可能性がある」という脅し文句や、架空料金請求詐欺の記事で紹介した「未納料金」という名目も、いずれも被害者自身には真偽を確かめようのない、専門的・技術的な体裁を取っています。仕組みが分からない分野の話ほど、「そういうものか」と受け入れてしまいやすいというのは、特殊詐欺全般に共通する心理的な弱点だと言えそうです。
「だまされたふり作戦」とは何か
先ほどの事件で使われた「だまされたふり作戦」は、交際あっせん詐欺に限らず、特殊詐欺全般の摘発でよく使われる捜査手法です。詐欺に気づいた被害者が警察に相談・協力し、あえて要求どおりに応じるふりをして、現金や物品の受け渡し場所に犯人(受け子など)をおびき出し、その場で取り押さえて現行犯逮捕する、という仕組みです。被害者本人が実際にお金を失う前に、犯人側の身柄を押さえられるという点で、非常に有効な摘発手法とされています。
この作戦は、「おとり捜査」とは法的に異なるものとして整理されています。おとり捜査は、捜査機関が身分や意図を隠して相手に犯罪の実行を持ちかけ、相手が応じたところを検挙する手法で、最高裁(平成16年7月12日決定)は、直接の被害者がいない犯罪(薬物犯罪など)に限り、任意捜査として許容されるとしています。つまり、まだ起きていない犯罪を捜査側が成立させる形です。これに対してだまされたふり作戦は、犯人側がすでに独自に被害者へ接触し、金銭を要求する行為に着手した後で、警察が関わる手法です。新たに犯罪を持ちかけているわけではないため、おとり捜査には当たらないとされ、この作戦が使われたこと自体を理由に無罪判決が出ることはありません。なお、受け取りに来た「受け子」を詐欺罪に問えるかどうかについては、警察が現金を偽札にすり替えた時点で詐欺が成功する可能性がなくなることから、別の法律論点として最高裁まで争われており、「承継的共同正犯」という理論で受け子の責任が認められています。
ここで一つ、知っておきたい注意点があります。この「だまされたふり作戦」という言葉自体が、別の詐欺に悪用されるケースも報告されているということです。「だまされたふりをして犯人を捕まえるので協力してほしい」と、警察官を装った人物から連絡があり、指示に従って現金を用意させられる、という事件が実際に起きています。本物のだまされたふり作戦では、警察が模造紙幣を用意し、それを被害者に手渡した上で犯人側に渡してもらう、という流れが一般的です。つまり、被害者自身が本物の現金を用意する必要はありません。「協力のために現金を用意してほしい」と言われた場合は、その時点で不自然だと考え、まずは自分から警察相談専用電話「#9110」にかけ直して確認することが重要です。
なぜ検挙が1,700%も増えたのか
この記事の冒頭で触れた「検挙件数+1,700.0%」という驚異的な伸び率は、上記のような事件が背景にあるのではないかと考えられます。個人が単発で行う詐欺と違い、事業として結婚相談所を運営しながら詐欺行為を組み込んでいたケースが摘発されると、複数の被害者・複数の余罪がまとめて明らかになりやすく、検挙件数・検挙人員が一気に押し上げられる可能性があります。実際、上記の事件でも1人の代表者が2件の被害で立件されており、警察は他にも同種の余罪がないか調べているとされています。認知件数の急増と検挙件数の急増が同時に起きているのは、こうした組織的な事件の摘発が進んだ結果である可能性がある、というのがこの記事の見立てです。
正規の結婚相談所には、クーリングオフという保護がある
交際あっせん詐欺と、正規の結婚相談所とのトラブルを見分ける上で、知っておくと役立つ制度があります。結婚相手紹介サービスは、契約期間が2ヶ月を超え、契約金額が5万円を超える場合、特定商取引法上の「特定継続的役務提供」に該当し、契約書面を受領した日から8日間はクーリング・オフができます(出典:消費者庁「特定商取引法ガイド」)。クーリング・オフは無条件での契約解除であり、業者側は違約金や手数料を請求することはできません。もし解約を申し出た際に高額な違約金を請求されたとしても、その請求自体が違法である可能性があります。
この「特定継続的役務提供」という枠組みは、結婚相手紹介サービスだけを特別扱いしているわけではありません。エステティックサロン・美容医療・語学教室・家庭教師・学習塾・パソコン教室と合わせて、長期間・高額になりやすい継続的なサービス契約全般に共通する消費者保護の仕組みです。裏を返せば、結婚相手紹介サービスは、エステや語学教室と同じくらい「後からのトラブルが起きやすい」と国が判断している業種だということでもあります。だからこそ、契約前の事業者確認がより重要になります。
この制度が使えるのは、あくまで実在する正規の事業者との契約に限られます。交際あっせん詐欺のように、そもそも紹介の実態がない、あるいは会社ごと詐欺目的で運営されているようなケースでは、クーリング・オフの手続き以前に、警察への相談が優先されるべきです。
「結婚相談所トラブル」と「交際あっせん詐欺」は、少し違う話です
ここで一つ、整理しておきたいことがあります。国民生活センターには、結婚相談所に関する相談が継続的に寄せられていますが、その多くは「事前の説明と実際のサービス内容が違った」「解約したいのに手続きが進まない」「勝手に会費が引き落とされた」といった、正規に実在する事業者との間で起きる契約トラブルです(出典:国民生活センター「結婚相手紹介サービスの、親への訪問や電話勧誘にご注意ください」)。これは民事上のトラブルであり、警察庁が統計を取っている「交際あっせん詐欺」(会員登録料や保証金を名目に、最初から金銭をだまし取る目的で近づいてくる詐欺行為)とは、性質の異なる問題です。
この違いを意識しておくことは大切です。「結婚相談所は詐欺が多い」という漠然とした不安を持つ必要はありません。実在する事業者との間で起きる料金・解約トラブルには、前述のクーリング・オフをはじめとした消費者保護の制度で対応できます。一方、最初から紹介する意思のない相手からの「登録料」「保証金」の要求は、消費者トラブルではなく、明確な犯罪行為です。この記事で扱っているのは、あくまで後者です。
もう一つ、結婚相談所業界でしばしば話題になるのが「サクラ」の存在です。会員から長く会費を得ようと、実在しない、あるいは紹介する気のない異性の情報だけを見せ続ける、という問題です。一般的には、会員数・成婚実績が豊富な大手事業者ほど、サクラを用意する必要性そのものが薄いとされています。逆に、会員数の実態が確認しづらい小規模な事業者や、実在するかどうかも分からない相手からの一方的な勧誘ほど、警戒が必要だといえます。
接点は「雑誌」から「SNS」へ
警察庁の公式な説明では、交際あっせん詐欺の入口は「雑誌やメールに記載された『女性紹介』等の案内」とされています。一方、実際に愛知県警が摘発した2026年の事件は、どちらもSNSでのやりとりが接点になっていました。定義上の説明と、実際に起きている事件との間に、接触手段のずれが生まれ始めていることがうかがえます。
雑誌やメールという手段は、送られてくる相手が限られており、身に覚えのない広告として比較的気づきやすい面がありました。これに対してSNSは、結婚相談所の公式アカウントや、婚活関連の広告と見分けがつきにくい形で接触してくることがあります。この記事のシリーズで扱ってきた他の手口(架空料金請求詐欺のSMS化、金融商品詐欺のSNS型投資詐欺への派生など)とも共通する傾向ですが、特殊詐欺全体が、紙・電話からSNSへと接触経路を広げつつある、という大きな流れの一部として、交際あっせん詐欺も位置づけられそうです。
見分け方
- 「あなたのために保留している」「相手が気に入っている」といった、真偽を確認しようのない言葉で、追加の支払いを求められた場合は、いったん立ち止まる。登録料を払った後の「保証金」「解除費用」といった追加請求は、この手口の典型的なパターンです
- 「システムの異常」「決済のロック」など、もっともらしい技術的な理由で追加送金を求められても、正規の事業者がそのような理由で個人に現金を要求することは通常ありません
- コンビニのコインロッカーや駅構内のロッカーに現金を入れるよう指示された場合、それ自体が強い危険信号です。正規の事業者が代金の支払いにコインロッカーを使うことはありません
- 契約前に、事業者の実在性・特定商取引法に基づく表記(会社名・所在地・連絡先)が明示されているかを確認する
- 結婚相談所を名乗る事業者であれば、日本結婚相談所連盟(IBJ)など業界団体への加盟状況も確認材料になる。加盟していないことが即座に詐欺を意味するわけではありませんが、判断材料の一つにはなります
相談窓口
不審な勧誘や、すでに金銭を要求されている場合は、契約内容に関する相談であれば消費者ホットライン「188」(局番なし)、詐欺の疑いがある場合は警察相談専用電話「#9110」に相談してください。どちらに相談すればよいか迷う場合も、とりあえずどちらかに連絡すれば、必要に応じて適切な窓口を案内してもらえます。すでに振り込んでしまった場合も、「恥ずかしいから」と諦めず、できるだけ早く相談することが重要です。特に「保証金」「解除費用」のように複数回にわたって振り込んでしまっている場合、相談が早いほど、口座凍結などの被害回復の可能性が残ります。
家族の備えとして、できること
交際あっせん詐欺は、恋愛や結婚という、家族にも打ち明けにくいテーマが絡む手口です。だからこそ、一人で抱え込みやすいという特徴があります。
- 「女性(男性)を紹介する」という広告・DM・SNSでの勧誘には、契約前に必ず家族に相談する習慣を作っておく。本人が恥ずかしさから一人で判断してしまうケースが多い手口です
- 一度お金を払った後に、また別の名目で追加のお金を求められたら、その時点で必ず誰かに話すよう伝えておく。「保証金」「解除費用」といった二度目・三度目の請求こそが、詐欺を疑うべき最大のサインです
- コインロッカーへの現金の受け渡しを指示された、という話を聞いたら、すぐに警察に相談するよう強く勧める。この受け渡し方法自体が、正規の取引ではあり得ない手口です
- 婚活・結婚に関する話題そのものを、家庭内でタブーにしない。デリケートなテーマだからこそ、日頃から自然に話せる雰囲気があるかどうかが、いざという時に相談してもらえるかを左右します
まとめ:紹介されるのは「人」ではなく「詐欺の仕組み」
交際あっせん詐欺は、ロマンス詐欺のように架空の恋愛関係を演じる必要がない分、詐欺師にとって手間の少ない手口です。「登録料」から「保証金」、そして実際の事件で見られた「決済システムの解除費用」まで、名目を変えながら段階的にお金を要求してくる点は共通しています。令和8年上半期は認知件数・検挙件数のどちらも大きく伸びており、組織的な摘発が進んでいる一方で、被害そのものの拡大にも歯止めがかかっていないのが実情です。
愛知県警の事件が示しているように、正規の結婚相談所ビジネスと詐欺行為が、外形上は見分けのつかない形で同居してしまうこともあります。看板が「結婚相談所」であること自体は、何の保証にもなりません。大切なのは、看板の裏側にある実態、つまり事業者としての実在性・業界団体への加盟状況・支払い方法の妥当性を、契約前に一つずつ確認することです。「紹介する」と言われた時点で紹介されているのは、実在する異性ではなく、巧妙に設計された詐欺の仕組みかもしれません。
SNSを起点にした恋愛感情につけこむ詐欺についてはロマンス詐欺の記事、電話・郵送を起点にした詐欺全般については電話型の記事もあわせてご覧ください。
(当サイトは個人が運営する情報サイトであり、警察・消費者庁などの公的機関とは関係ありません。記載内容は警察庁・消費者庁の公表資料および複数の報道機関による報道をもとに整理したものです。実際の被害・不審な勧誘に関するご相談は、消費者ホットライン「188」や警察相談専用電話「#9110」など公的な窓口へお願いします。)
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